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エッセー/アングロアメリカ
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エンロンのそこにある危機
荒木 裕一(アリックス・プロジェクト・マネジメント 代表取締役) エンロンというとMLBのヒュ−ストンだったか、フランチャイズ球場名として、にわかMLBファンの私にとってもよく知る企業名となりました。 また、ADSL等の急拡大で日本にも根付き始めたブロードバンドサービスでつい半年ほど前に「エンロンが日本で何をするんだろ・・・」という憶測とともに、電力、通信の業界連中がワクワク、ハラハラしていた発電とブロードバンドサービスのあのエンロンです。 エンロンは日本でブロードバンドのサービスを行おうとして、CTCが仲介をし、NTTが関連会社を使ってシステム構築とマーケティングを・・・というちょっとした図式ができあがりつつあります。 それで、身近となったブロードバンドサービスに対する親近感から、同時多発テロ事件でその距離がさらに遠くなった米国の一企業に思いをはせてみようと考えました。 ただし、わたしはエンロンについてニュースを見ながら初めて財務諸表等をみている程度で従来から深く知っているわけではなく、また、ここで書くことは、ニュースをプリントアウトして、得意でもない英語と格闘し、辞書を引き引き読みながら、考えたことなので、英語の解釈が間違っているかもしれず、また偏った解釈になっているかもしれませんのでご容赦ください。私の推測がある程度あたっていればですが難しい問題があるように思います。 小田さんの地域研究と言うことからする、このMLの趣旨とはずれますが... ▼今回の事態 10月26日の報道で、エンロンはコマーシャルペーパー市場からシャットアウトされ、$3,000min のコマーシャルペーパーのクレジットラインの解消後、債券と株式の市場価格の急落したというものです。この2週間で株式の市場価格は54%下落し、10月26日の終値は$15.4となっています。昨年の株式市場価格の高値 $90.563 、昨年末の終値 $83.125 からすれば1/5以下の状況にあります。 これは、最近までエンロンのCFOであったアンドリュー・ファストウ氏が実行した電力購入先であるパートナシップ企業 に対するエンロン所有でパートナーシップ各企業用の発電用施設・設備等のパートナーシップ各企業に対する売却による一連の保有資産のオフバランス化取引によるエンロンの財務状況の急速な悪化がその重要な点です。 ▼今回の有価証券価格急落の原因となった取引の内容 今回の件は、エンロンが購入する電力の供給元であるパートナーシップ企業向けの発電用施設・設備等をエンロン側のリスクで建設し、各パートナーシップ企業はその施設・設備を購入後も有利な資金提供者を見つけて売却し、それによりエンロンに対する債務を決済処理するという、一連の取引(ディール)により成立するものです。 パートナーシップ企業各社はおそらく発電用資産売却後その資産を借りて発電事業を行うものと思われます。 そうした点から、今回の件は、有利な再売却先が見付かるのであれば、 1. すでにその時点事業施設が存在し、事業が成立していること の3点から新たな資金提供者にはリスクの比較的少ない取引となり、有利に一連の取引を勧めると目論まれたものと思われます。 なお、記事では当該パートナーシップ企業各社関連の債務は少なくとも33億ドル程度存在するとのことです。 見方を変えれば、香港の海底トンネル建設、東南アジア各国での高速道路・LRT・発電所・港湾・空港等建設でよく見られる方法ともいえます。また、シスコシステムズ前決算でシスコの足を大きく引っ張った新興電話会社(CLECs)に対して行ったベンダーファイナンスと同種のものとも考えられます。 ではどこが、例えばシスコと大きく異なったのか... ▼エンロンの財務的な特徴 エンロンの決算は
日本円ベースの年間売上高12兆円、総資産 8兆円 巨大企業ですが、電力事業・エネルギー関連事業という点から利益率が極めて低く、また、1999年度決算から2000年度決算にかけてWholesale_Service部門での取扱高が大幅に急増し、価格変動リスクの高い事業活動に基づく負債の大幅な増加に伴い、売上高の急増、総資産の急膨張に特徴があります。また、IBITのほとんど$2,252mlnがWholesale_Serviceによるという点に特徴を有する財務諸表となっています。 ちなみに日本でその動向注目されているブロードバンドサービスは昨年初めて売上げに区分計記され、年間売上げは 408百万ドル でIBIT(60)ですから、全体から比べると1%にもみたず、赤字部門です。 シスコのそれと比べた場合、利益率が脆弱な企業といえ、その点で昨年取扱高は一昨年に比べて急増しています。 ▼一般的な解説 コマーシャルペーパーというのは信用力のある会社が発行する割引債の形式で発行される短期(償還まで数日から数ヶ月)の有価証券で日本でいう手形みたいなもので、通常は無担保・無保証で、取引の決済等短期資金の確保のために発行されます。 今回は10月26日直近で発行残高が22億ドル(約2,700億円)あったようです。 コマーシャルペーパーは無制限に発行される訳ではなく、金融秩序維持の観点から、各会社の信用度合い(格付)に基づき、クレジットラインという発行上限額を決め、その範囲内で発行します。今回のケースでは30億ドル(約4,000億円)がクレジットラインです。 ただし、優良な会社((場合によっては銀行よりも)信用度の高い会社)が発行することから、無担保・無保証であっても通常は銀行のローンの利率より低い利率での調達が可能です。 なお、格付は短期のコマーシャルペーパーと長期債では、その資金的な性格、元本償還のリスク・利払いのリスクから格付のやり方、表示方法とも異なります。エンロンの中長期債の格付は現時点ではBBBからBBB+(S&P格付) コマーシャルペーパーでA-2(S&P格付)です。 (ちなみに日本の手形による決済制度を上記のような考えで定義すると、銀行(通常はメインバンク)保証の短期有価証券を事業会社が発行し、それにより買掛代金等買掛債務を決済することにより信用体制を維持する方法という風に定義できます) ▼現在の状況 エンロンの発行する債券等が投資不適格(ジャンク債:機関投資家が購入できない、高リスクと認定された格付BB以下の債券)となった場合、期限の利益を失い(契約による償還までの期限が消滅し)、おそらく早期あるいは即時償還 または同額の担保提供を求められることになり、上記の仕組みが崩れ、当該パートナーシップ各企業が当該資産を有利な条件で売却先を探す時間がなくなり、発生する負債との差額を埋めなければならず、一方で負債による資金調達が難しくなったエンロンは、例えばパートナー企業が保有する優先・転換株式の転換により普通株式を発行するなどの方法しか残っておらず、その方法により、上記の取引を決済・解消するといったことが想定され、よって普通株式の希薄化が起こり、株価が下落するといったシナリオにとなるものです。 上記の負のスパイラルに陥ったか、陥る可能性が極めて高くなったことから債券ばかりでなく株式の市場価格も下落したようです。 コマーシャルペーパーのような短期債だけではなく、長期債についてもS&P、ムーディーズ等の格付機関は格落ちの検討に入っているようですから、想定される悪い方に確実に事態は動いています。 ▼エンロン債の状況 従来発行されている2009年償還のエンロン債の表面利率(クーポン)は6.3/4%、BBB+トリプルBプラス:S&P)格が、現在のイールド(実勢利率)からすると9.53%であると報道されています。 同期間、格付、クーポンと比較してみると、2009年1月償還のノースキャロライナ州の公債、クーポン 6 1/8%、格付BBBが実勢利率 4.8%ですから、公債と事業債の違いはあるとはいえ、ボロボロの状況にあります。BB以下となれば投資不適格となり、ジャンク債の範疇に入ってしまい、通常の負債による資金調達活動は難しい状況となります。 両債券を比較してみれば、すでに債券市場はエンロン債券を元本の償還・利払い可能性の低い、高い実勢利率(ハイイールド)債券とみなしています。 公益的な会社だからいいのでしょうが、しかも子会社には親会社以上の格付の会社もあるようですが、この手の巨大企業が市場から資金調達できないとなると、存続さえ難しくなってしまいます。 ▼結論 株式の市場価格をよくするために、投資家が好むよう資産の圧縮を行い、総資本利益率等の改善から株価の上昇を狙った取引なのか、そうであれば今回の件でその意図ははっきりと失敗となります。 一方で昨年来のカリフォルニアの電力危機にみられるように、電力設備の増強が絶対的な課題となり、電力購入元であるパートナーシップ各企業の信用力が低く、その財政状態から発電施設等の設備投資がむずかしい状況から、外部の資金供給者からの最終的資金導入を前提にした設備のファイナンスをエンロン自身が企画・実行したケースとも考えられます。それからすれば、米国のパブリックサプライ分野での緊迫感を垣間見せてくれるような出来事でもあります。 確かにこれだけの規模の会社にしては資産規模が小さく、見事な財務諸表ですが、エンロンの日本法人のホームページ上での規制緩和の主張に反し民間レベルのみでのパブリックサプライ分野の充実は難しいことなのかもしれません。こういう事があると、1990年代に市場主義一辺倒できた米国の強さと脆さが浮かび上がっているようにも思える事態です。 ▼日本の場合 このような話は程度は低いですが、日本でもあり、たとえば日本航空 が自社保有の中古の航空機を償却を無視して、市場価格と称して高い価格で関係会社に売却して利益を捻出し、その航空機をリースバックして使用するという事が数年前の経済誌に掲載されていましたが、処理の動機は同じところにあるのかもしれません。欺瞞的処理と憤っても、民営化した日本航空にしてみれば、円滑な資金調達を維持するために窮余の一策だったのでしょう。 エンロンのケースは日本であれば、エンロンの代わりを電源開発が行うのでしょうが、今後の民営化から同様の事態の出現も想定されます。公的な保証制度はやはり必要でしょう。といっても道路建設とは大きく異なりますが... 少しばかり甘い評価になってしまいますが、今回のエンロンの処理は時間と事業環境の変化に負けたという感じがしますが、アメリカさんは大丈夫なのでしょうか。少しばかり心配です。 エンロンの今回の会計処理の意図が悪意に基づく欺瞞的行為ではなく、またこの事態が円滑に処理されることを祈っています。 【筆者プロフィール】 |
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