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エッセー/アングロアメリカ
ネットに見る米国のクリスマス商戦
小田康之(GEO Global代表 在サンフランシスコ)

 サンフランシスコの街なかは、ホリデーシーズンの始まりで活気に満ちている。赤と緑のクリスマスカラーの装飾が美しい。クリスマスツリー用の木の販売も活況を呈しているようだ。

 米国人は、クリスマスツリー用に根元からカットした生きた木を毎年買って家に飾る人が多い。ツリーは、ご存知の通りモミの木 "fir" が中心。モミの木は、モミの木でも、Noble Firだとか Douglas Fir だとかいろいろな種類があるんですね。これまであまり気にしたことがありませんでしたが。

▼ブラックフライデーから始まるホリデーシーズン

 11月の第4木曜日にあたるサンクスギビングの翌金曜日は、小売業の世界では「ブラック・フライデー」と呼ばれる。「ブラック」というと、大恐慌の始まりを告げた1929年の「ブラック・サーズデー」(暗黒の木曜日)や1987年10月19日株式市場暴落の「ブラック・マンデー」(暗黒の月曜日)などを思い浮かべてしまうが、「ブラック・フライデー」の「ブラック」は、ちょっと違う。「暗黒」ではなくて、客が押し寄せて店が「黒字」になるホリデーシーズンの始まりということだ。

 このブラック・フライデーを始まりとしたサンクスギビング後の週末には、多くのアメリカ人は買い物に忙しい。クリスマスの飾り付けやら、プレゼントやらを買い求める人で、ショッピングモールや小売店は、どこもごったがえす。サンフランシスコもご多分に漏れず、街中の店は人であふれかえっていた。

 そんな中でも、今年特に賑わいを見せているのは、ディスカウントを売り物にしている店だ。景気の落ち込みと先行きの不透明感が多いに影響しているのだろう。

▼今年はちょっと違うネット上のクリスマス商戦

 街なかだけではなく、ネット上でのクリスマス商戦の火蓋も切って落とされている。ただその中身は、ちょっと今までとは違うようだ。

 昨年のクリスマス商戦で注目を集めていたおもちゃのオンライン小売店eToysは、今年の始めに潰れてしまった。ところが、eToysのサイトにアクセスしてみると、ちゃんとおもちゃを販売している。これはどういうことかというと、ネット専業だったeToysは、営業停止後、全米に展開している小売店KB Toysに買収され、そのオンライン部門となっているのだ。eToysが築いたウェブ上のブランドを受け継いでいる。以前のeToy
sのウェブ上の機能も復活させて、既存の顧客もそっくりそのまま受け継ごうとしている様子だ。

▼インターフェースの多機能化

 オフライン店舗を持つ小売店も、ウェブ上での販売に知恵を絞っている。

 皮のバッグで有名なCoachは、クリスマスぎりぎりにくる買い物客向けに、ウェブ上にE-Giftという機能を追加した。これは、商品が発送される前に、即座に電子メールで相手にプレゼントの内容が、写真や製品説明とともに届くというもの。うっかりプレゼントを買い忘れたり、ぎりぎりまで仕事が立て込んで手が離せなくなったりしても、これならクリスマス直前にでもウェブから注文すれば大丈夫、という便利な機能
だ。

 想像に難くないが、アパレル関係はオンラインでの販売が難しい。着慣れたブランドでもない限り、実際に試着してみないと自分にあうサイズやスタイルが分からないからだ。そんな問題を解消するため、カタログ販売を中心とするアパレル小売のLands' Endは、ウェブ上でMy Virtual Modelという機能を実現している。これは、身長、体重、体型、肩幅、顔形、髪型などを設定することによって、自分用の仮想のモデルをつくり、表示することができる。これによって、自分に合うサイズやスタイルの服をウェブ上で選ぶことができるようになっているのだ。

▼さらに進むオンラインとオフラインの提携

 ネットの世界で、小売ウェブサイトとして圧倒的なブランド力を持っているのは、やはりAmazon.comだ。Jupiter Media Metrixの調査によると、今年のホリデーシーズンの始まりであるサンクスギビングの週には、Amazon.comに1日平均227万のユニークビジターのトラフィックがあった。これは、全米に展開する主なオフライン小売チェーンの小売ウェブサイト(Walmart.comなど)の実に5倍以上の数字だ。

 このトラフィックの差が物語るように、既存のオフライン店舗は、オンラインでの販売はネット専業の業者にアウトソースする傾向も顕著になっている。おもちゃ小売チェーンのToysrusに始まり、電化製品チェーンのCircuit Cityや総合小売チェーンのTargetなど、続々とAmazon.comと提携している。各社がそれぞれオンラインショップを運営するよりも、はるかにトラフィックが大きく、ウェブ上のマーケティングに経験豊富なAmazon.comに任せたほうが、効率がよいからだ。

 全米第2の書籍チェーンであるBordersも書籍販売の競合であったAmazonと提携し、今年の8月から共同ブランドのウェブサイトで販売をおこなっている。Bordersは、自社サイトとして単独で運営していた時には膨大な赤字を垂れ流していたが、Amazon.comにアウトソースすることによって、既に黒字化しているという。

 このように、インターフェースの多機能化、オンラインとオフラインの提携などで迎えた今年のクリスマス商戦であるが、その出足は好調のようである。さて、このままの調子を維持してゴールに駆け込むことができるのか。気になる景気の行方を左右するだけに、ハラハラしながら皆、注目しているところだ。

【筆者プロフィール】
下記のサイトをご覧ください。
http://yasuoda.com

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