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バングラディシュのNGOを
小野寺 恭子(GEOオーガナイザー)
 ODAといっても様々な分類や規模がある中で、NGOが一般的に使えるような枠組としては、外務省の「草の根無償資金協力」と「NGO事業補助金」がある.前者は現地で活動するNGO(国籍不問)が在外公館に申請する方式で、内容としては物資調達が中心だが、プロジェクトの全経費が支給される.一方、後者は日本のNGOが途上国の開発に協力する際、経済協力局の民間援助支援室(民援室)に申請するもので、人材の派遣などソフト部分も対象となるが、補助金であるため、支給は全経費の半額以下である.

 さて、上記の民援室からのNGO補助金を受けた事業への評価ミッションが、昨年11月末〜12月初頭にかけ、ネパールとバングラデシュに派遣された.民援室の担当官、ジャーナリスト、評価対象以外のNGOのメンバーという3名で構成され、私もその3人めとして計9日間、各国3団体ずつの事業を視察(えらそう)してきた.思ったことはいろいろ、でも全般的なことはオフィシャルな報告書に書いたので、ここでは少しだけに出し惜しみ.

 バングラデシュの首都ダッカから車で約30分の辺りに、サクラファミリーホームという孤児院がある.お茶の会社を経営する中川さんと、故郷の料理のレストランを経営する中川夫人(バングラデシュ人)が中心となる日本バングラデシュ協力基金が運営しており、子供のいない未亡人3人をお母さんとして、事務所のビルの3階には子供6人、敷地内の2件の家にはそれぞれ子供11人ずつの計3家族が住んでいる.

 できるだけ「普通の家族」と同じように暮らせるようにということで、兄弟姉妹のバランスも考えて家族が組み合わされ、年齢等に合わせて毎月の各家族の生活費や食費が支給され、その中でお母さんが家庭をきりもりしている.年3回位訪れる中川さんは皆に「おじいちゃん」と呼ばれている.ダッカ大学を92年に卒業したラーマンさんが施設全体を管理し、他にガードマンが3名.こちらの敷地は中川夫人がバングラデシュ人ということもあって取得しやすかったということだが、運営費用は、日本で近所・知り合いの人々が、各子供の里親になって一口1000円/月を送ってくれたり、バザーを開いてその売り上げを送ってくれたりする中でまかなわれるそうである.ただし、どうしても足りない部分は、中川氏が寄付金として拠出することもあるという.

 本当に、顔の見える範囲だからこそ人々の好意が継続し、また親身な応援が得られるのだなぁと、あったかさを感じるホームだった.今回視察の対象となったNGO補助金は塀の修復に使われたのだが、全体として大きな資金等は必要ない.個人ができることの積み上げで、十分に機能する協力ができるという好例だ.

 さて、サクラファミリーホームから、車で15分程の所に、国際エンゼル協会の孤児院がある.といってもこちらは、職業訓練校、女性のインカム・ジェネレーションのためのセンターが併設され、また少し離れた所には農業訓練校も持つという大きな施設だ.

 各訓練校での教育は、やる気をかきたてるためにも、無料ではない.訓練校でできた種苗等を周辺の農家に分ける際も、安くはあるがタダではない.NGO補助金は何度か交付され、例えば養鶏施設の建設費の一部として使われた.エンゼル協会によれば、同協会からその周辺地域に養鶏技術が広まって、昔は高級品だった卵がダッカ市内では安く販売されるようになり、一般の人にも買えるタンパク源になっているという.確かに鶏卵は、あちこちの町角に積み上げられていた.今後はいかに値崩れを防ぐかを考えなくてはいけないだろうとのことである.

 また、上記のセンターには、近所の女性が集まって刺繍の工芸品を作る部屋がある.刺繍をする人、ミシンで品物へと仕上げる人等、役割と技術により報酬は違う.また、センターが工場と契約して靴の手作業部分を請け負っており、その作業のための部屋が別にある.機械で裁断され縫い目用の小穴が開けられた黒・茶の革がどさっと積まれ、太い糸で縫いあわされると、おぉ、ローファーの上部分ができていく.それらは工場で底等を仕上げ、イタリアに輸出するものだという.出来高賃金で、10歳位の女の子もベテランだ.人の出入りを見ても、祭り等を開くと人が集まってくれたり逆に呼ばれたりすると聞いても、これら一連の活動がコミュニティの一部にすでに組み込まれているという感がある.

 もちろん、様々な施設があれば経費もいろいろかかるし、管理もたいへんだ.日本人常駐は1人、現地のスタッフ多.日本の本部では会員を募り、バザーを開き、センター作の工芸品を売り、資金を集めて送ってくれる.またそれら会員が施設を訪れることも多く、周辺の人々は、日本人に会うことに、ある意味で馴れていた.

 現地の日本人スタッフとローカルスタッフの一体化した管理部門、確実なプロジェクト実施部隊、そのための人材の確保と育成システムの確立、日本での資金集めと現地での資金の回転の成功、と4要素がそろって、NGOの活動が十分継続されていく.組織として機能するNGOというものを定義し、その役割を開発援助に位置づける作業はまだ成功していないと思う.しかし、かっちりした枠がNGOにはめられるのかというディレンマもある.手作りという印象の強いサクラファミリーホーム.地元に根づいて幅広く活動を展開する国際エンゼル協会.これまでの成果も今後の課題も見極めつつ、事業の「発展・拡大」に追われずに、活動を継続してほしいと思った.継続することのコストはそれだけでも大きい.「寄付や援助がその団体のために使われる」ことに眉をしかめず、自分が信頼できると思える団体、応援したいと思う団体を見つけたら支援をためらわないでいたいと思う.

<寺 田> 仕事で、自治体の払い下げ乾パンや中古救急車を途上国に送っています.到着の確認だけでなく、物資の中にまざって現地までの全行程を知りたいな.でも無理だろな.

[本エッセーは、1998年1月発行の地域研究組織GEO Newsletter第2号に掲載されたものです]

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updated:2002.07.26