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エッセー/アジア
スタバに行けば上海が見える?!
有留修(月刊ビジネス情報誌『上海商流』編集顧問・在上海)

 昨年上海進出を果たしたスターバックス。あっという間に市内の目抜き通りの主なところにお目見え、外国人に交じって、数多くの地元人でにぎわっている。 確かに、スタバのコーヒーは、ほかと比べると、やはりうまい。それまでにも上海市内にはコーヒー店があるにはあったのだが、そのカプチーノやカフェラテときたら、とても本物とはいえないシロモノだった。そこにスタバが本物のコーヒーを持ちこんで成功したといえよう。

 だが、スタバの成功は何もコーヒーの味だけによるのではない。スタバ現象の奥には、上海という市場をとらえるうえでの興味深い特徴が潜んでいるのだ。

▼コーヒーよりも雰囲気

 「別にコーヒーは好きじゃないけど、スタバは好き。なぜって、あそこの雰囲気がいいんだもの」

 こういって話してくれたのは、スタバに毎週通う知り合いの上海女性。どうも彼女たちは別にコーヒーを求めてスタバに通っているわけではなさそうだ。実際、オーダーするのはスタバ自慢のカプチーノやラテではなく、ジュースだという人も多いと聞く。では、彼女たちの好きな「雰囲気」とは、いったいどんなものなのだろうか?

 それは、ずばり、「欧米という進んだ世界の一員に自分がなったと思わせてくれる雰囲気」だといえよう。さらにうがった見方をすれば、「自分も欧米人の仲間入りをした」と「錯覚」させてくれる場所、それこそが上海人の上昇志向、「他人よりも優れたい」という優越感をくすぐるところであり、ビジネスが成功する一因となっているのではないだろうか。

 街を歩けば日系、台湾系、地元系と喫茶店がいたるところにあり、中にはスタバのまがい物といえそうな、そっくりさんまである。コーヒーの味はともかく、この「雰囲気」をつくりだすのは一朝一夕にはできない。そこにスタバの差別化があり、最大の強みがあるといえるのではないだろうか。

▼洗練された中国人消費者のニーズを満たす

 スタバに限らず、上海人は流行に敏感で、最新、最高のモノを求める傾向が強い。日系企業を主なクライアントとする上海市京達律師事務所の範雲濤弁護士もその点を指摘して、日系企業の姿勢を問題視する。

 「日系企業の中国人消費者の扱い方は、いまだに発展途上国並です。現実には、中国人消費者はインターネットやその他のメディアを通じて、日本人が想像する以上に商品情報や流行情報に通じています。それは上海女性を観察すれば、一目瞭然です。ファッションや化粧品、日用品などに対する流行感覚には、実に敏感で洗練されたものがあります」(上海商流5月号特集「検証 中国ビジネス」より)

 目の肥えた上海人に「進んだ世界」「最先端の世界」を感じさせる製品やサービスを提供すること、それこそが企業の側に求められる姿勢であり、ビジネス成功のためのひとつの大きなヒントだといえよう。

 もちろん、そうした現実を直視し、最高のモノやサービスを提供しようとする企業は増えてきている。最近取材で訪れたある日系の美容室もその一つ。巨大なスペースに日本の最新設備、そして大量の日本人スタッフを抱え、かなりの高価格ながら、日の最高の美容サービスを提供しようとしている。また、日本人も聞いてびっくりするような「お客様のニーズを先取りし、言われる前に細かいケアを提供するのが成功のカギ」と語ってくれた世界の豪華ホテルチェーンの支配人。各企業が最高の製品とサービス、そして精鋭部隊をつぎ込み、要求の高い上海人のハートを射止めようとしている。

★以上は中国情報満載の隔週新聞「チャイニーズドラゴン」の「レポート:中国ビジネス最前線」に筆者が連載している原稿の転載です。

 筆者への質問・コメントはaridome@sh163.netまで。

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updated:2001.07.31