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シンガポールの国会を傍聴してきました
勝間田 弘(英国バーミンガム大学大学院・在シンガポール)
 6月、東京でのGEO会合では久しぶりに日本の皆さんと会話を楽しんでから、再びシンガポールへ戻ってきました。日本からシンガポールに来ると、やはり町がきれいですね。ゴミが落ちてなく、すべてが整っています。これは、政府の締め付けが強いからです。ゴミのポイ捨ては罰金の対象という法律をご存知の方は多いでしょう。

 この国では1965年の建国以来、人民行動党という与党の一党支配が続いています。その強さは日本の自民党支配の比ではありません。シンガポールでは野党勢力がないに等しいのです。現在も100近くある議席のうち、野党は二席しか持っていません。

 さて、こんな国の政治の中枢が国会です。町の真中に堂々と構えています。これ、外国人でも中に入り、本会議を傍聴することができるのです。必要なのはパスポートの呈示だけです。

 現在シンガポールでは国会の会期中であり、私も先日、本会議を傍聴してきました。そこで、その時のお話をしたいと思います。

▼カジュアルな国会議員たち

 議事堂内に入ってまず驚いたのが国会議員たちの服装です。実にカジュアルなのです。ネクタイなしでシャツの襟を開けている人が多く、また、ゴルフにでも行きそうな格好の人もいます。日本の議員のように上着にネクタイと決め込んでいる人は、全体の四分の一くらいしかいません。

 本会議が始まると、もっと驚くことがありました。会議中に議員の携帯が鳴り出したのです。始まる前に電源を切るのを忘れたのでしょうか、慌てて止めていました。

 何ともリラックスした雰囲気です。どういう訳でしょうか。野党勢力がない状態だから、本会議なんて実質的には何もしない、どうでも良いものなのでしょうか。

▼口角泡が飛ぶ政策論争

 しかし、しばらく会議を傍聴してみると、そんな推測は間違っていることに気づきました。何といってもシンガポールの国会には議論があります。何もしていないなんてとんでもない、本会議では議員が政策を真剣に討議するのです。

 議員の質問に担当の大臣が答えるのですが、そこには官僚の書いた原稿などありません。立て続けに出てくる質問に、大臣がその場で答える。それに対する反論が出て、さらに議論が続く。文書として用意されているのは最初の質問だけです。あとの議論には台本が一切ありません。

 国会に野党勢力はなくても党内での政策論争があり、その場が本会議なのです。各議員は選挙区の代表であり、党の執行部に政策を訴えるのです。

 全体の印象をまとめると、国会というよりも「会議」ですね。会社や学校で行われるのと同じ、会議です。格式ばったところもなければ、原稿もない。参加者が真剣に議論するのみ。本来の国会とは、こうあるべきなのでしょう。

 これに対して日本の国会は、確かに議員たちの服装はきちんとしており、形式だけは整っています。しかし、実際の会議は官僚が書いた原稿を読むだけのもの。以前に私も傍聴したことがありますが、居眠りをしている議員がいて呆れました。これではいけません。日本は、シンガポールから学ぶべきところがあるようです。

 なお、後で知ったのですが、カジュアルな服装はある意味で意図的なのだそうです。国家建設の父、初代首相のリー・クアン・ユーが始めたことで、政治家とは身近な存在だということを示すのが狙いだそうです。シンガポールの国会、ますます感心します。

【筆者プロフィール】
勝間田 弘(かつまた ひろし)英国、バーミンガム大学大学院、政治・国際学部博士課程在籍中。冷戦後のアジア太平洋地域における政治・安全保障協力への、社会学的理論によるアプローチを目指す博士論文を執筆中。アセアン諸国の役割を考察するために、現在シンガポール国立大学大学院、政治学部にて研究中。
メルマガ「教科書に書いていない国際政治学
<http://members.aol.com/hiro102570/magazine2.htm>
著者。GEO Globalメンバー。

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updated:2002.08.02