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かっこいい指導者の時代
掲載:GEO NewsLatter(編集:小田康之)1997年2月発行
●GEOメンバーの眼

 田中宇(たなか・さかい)さんをご存知だろうか? GEOのコロキウムで毎回のごとくジャーナリストらしい鋭い質問を投げかけながらも、その暖かい人柄が常ににじみ出ているいるあの方である.共同通信での記者生活は10年を数え、読売新聞や産経新聞の書評でも高く評されたノンフィクションの著書もお持ちである.ご本人に言わせると 「マスコミは嫌いなのに、給料だけはマスコミからもらっている.」のだそうだ.でも今は、もっぱらインターネットでの国際ニュースの解説の方が本業のようでもある.

<GEO運営者追記>田中宇さんは、その後マイクロソフトに転職され、マイクロソフトネットワークニュース&ジャーナルという同社のホームページで国際情勢について健筆をふるわれています。
(MSNニュース&ジャーナル <http://news.jp.msn.com/>)

●「かっこいい指導者の時代」by 田中宇

 GEOの今年一月のコロキウムで講演した上智大学博士課程の若手研究者、石井正子さんは、フィリピン南部のミンダナオの民衆社会の中に滞在しながら、彼らの生活について研究した人だ.講演の内容で印象に残ったのが、ミンダナオのイスラム教徒ゲリラ組織MNLFの指導者、ヌル・ミスアリと会って写真を撮ろうとした時に「私がカメラを向けると、ミスアリはじっとカメラのレンズの方を凝視するんです.その精悍さに迫力があって、私はポーっとなってしまい、シャッターを押せなくなってしまいました」と言っていたことだった.

 それを聞いて、インドネシアと戦っている東チモールのゲリラのリーダー、シャナナ・グスマオもまた、同じようなかっこよさがあったことを思い出した.グスマオはインドネシア軍に逮捕されて獄中におり、私は直接会ったことはないが、日本に来た東チモール人が肌身離さず持っていた財布の中から出して見せてくれたシャナナの写真は、おそらく石井さんのカメラのファインダーに写っていたミスアリと同じくらい精悍だった.

 さらに(今では独裁者となった)リビアのカダフィ大佐や、(一部の日本人の反発をかうだろうが)ペルーの日本大使館を占拠したゲリラのリーダー、ネストル・セルパにも、似たようなかっこよさがあるといわれている.かっこよさがリーダーシップの要件の一つになっているようにも見える.

 視点を広げ、世界の指導者たちをかっこいいかどうかで二分すると、どうだろう.どの指導者がかっこいいかは、見る人によって違う.だから、いろいろな批評者がかっこ良さを基準に世界の政治家を見て、その根拠を探っていくと、未来展望がしにくい今の世界を見る際に役立つのではないか.私自身が見たところ、かっこいい指導者は、ミスアリの交渉相手だったフィリピンのラモス大統領、マレーシアのマハティール、旧ソ連のゴルバチョフ、ペルーのフジモリなど.台湾の李登輝やドイツのコールは見かけは悪いものの、しっかりした方向性を持っていそうだから良い.一方かっこ悪いのは、日本の政治家の多くや、中国の共産党指導者の大半、インドネシアのスハルト、PLOのアラファト、南アフリカのマンデラ、ロシアのエリツィンなどだ.米国のクリントン、日本の菅直人や江田五月ら二世政治家は、若々しいイメージがかえってマイナスになっていると思う.

 そこから読み取れることの一つは、集団指導体制の政治家はかっこ悪く、個人的なリーダーシップを獲得した人が、かっこ良く見えることだ.時代は、第二次世界大戦の前後のように、再びヒーロー、ヒロインを求めているようだ.これまでに国民や支配者層が獲得した既得権益をいったん清算して、国の新しいメカニズムを作ろうとしている国が増えている.その場合、国民の不安を払拭し、進路を示せる(ように見える)指導者が必要になる.

 日本の橋本首相も、ヒーロー型の指導者を目指しているようだが、成功しているとは見えない.ただ、将来の見えない日本に必要なのは、ヒーロー型の指導者だということは、見えてきているようだ.

▼田中宇氏 ホームページ---------------------------------------------------

●「世界はどう動いているか<http://tanakanews.com/>
●「MSNニュース&ジャーナル<http://news.jp.msn.com/>

▼田中宇氏 略歴 ----------------------------------------------------------

 マイクロソフトでMSNニュース&ジャーナルの担当をしている記者兼編集者.1995年以来のGEOメンバー.1961年生まれ、東京育ち.1986年大学卒業後、繊維メーカー勤務1年を経て共同通信社に入社.京都で市民運動を3年間取材した後、大阪でバブル崩壊後の金融事件を担当.1993年に東京に移りゼネコン汚職、自動車産業、東南アジア経済などを取材.英文経済記事の和訳も1年経験.1995年に『マンガンぱらだいす』を刊行、読売新聞や産経新聞の書評でも高く評価される. 1996年春頃から、記者の仕事のかたわら、国際ニュース解説を掲載する個人のホームページ「世界はどう動いているか」を作りはじめる.その縁で、マイクロソフトから声がかかって転職を決め、1997年4月にマイクロソフトに入社.同年8月にMSNニュース&ジャーナルを立ち上げた.現在のところ2−3日に1本程度の割合で記事を執筆中.電子メールアドレスは、 sakai@tanakanews.com

[本エッセーは、1997年2月発行の地域研究組織GEO Newsletter第1号に掲載されたものです]

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updated:2001.7.31