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留学生受け入れ体制強化を
高野 靖子(GEO-Global オーガナイザー
 留学生担当専門教員を配置している大学36.8%、留学生担当専門職員を配置している大学51.7%、留学生会等の組織がある大学39.2%、日本人との交流組織がある大学37.2%、宿舎紹介を行っている大学16.9%(「大学の留学生受け入れ環境に関するアンケート」1997年5月留学生新聞調査結果より(296大学回答)).

 これは1983年に中曽根内閣が打ち出した、2000年までに留学生を10万人に増加させるという「留学生受け入れ10万人計画」留学生支援の実態である.

 計画を発表してから15年、2000年まで残り3年の現在、日本が抱える留学生は5万3千人(留学生大国アメリカは97年現在で45万人).78年の調査開始以来、初めて減少した.このままでは10万人どころか、優秀な人材が日本に来なくなるということも考えられる.留学生の受け入れ母体となる大学の体制整備が急がれる.そこで、3つの側面から私見を述べる.

 第一に情報面である.留学生にインタビューすると、大学・担当教官・奨学金など留学決定を左右する重大事項に関する情報が不足していると不満をもらす.実際に、某日本大使館の広報文化センターを訪問調査したことがある.そこでは日本国費留学生選抜のほか、日本留学に関する情報提供を行っていたが、情報提供といっても閉鎖的な雰囲気で、ブリティッシュ・カウンシルや日米教育委員会のように知りたい大学の募集要項が必ず用意されているわけではない.直接訪ねれば、全大学募集要項一覧など見せてくれるかもしれないが、留学相談というにはほど遠い.縦割り行政も色濃く、在外機関として最低限のことをしているという印象を受けた.こうした状況を改善するには、留学生を募集する大学がもっと本腰を入れて取り組むべきである.

 また、国内においても情報源の一元化が必要である.受け入れに積極的な私立大学の中には、国際交流センター等を設けて全学部一括対応を行っているところもあるが、国公立には一括対応のシステムがない場合が多く、各学部で対応が異なり、担当部署も違うというところがある.

 第二に制度面である.ここにも改善すべき課題が山積している.たとえば大学出願資格があげられる.外国で学校教育における12年の課程を修了した者に準ずる者(11年も可)でなければ、日本の大学および大学院(研究生も含む)に出願できない.したがって、大学入学まで10年以下の国(フィリピン、モンゴル等)の者は、日本へ留学するためには国際学友会日本語学校等の指定教育施設で教育を受け、かつ18歳になるのを待たねばならない.この問題は、18歳未満で大学入学資格を認める、いわゆる飛び級制度が確立されれば解消するかもしれないが、現状では留学希望者に大きな負担である.

 加えて大学院(研究生も含む)の出願資格もあいまいである.出願資格には、上記の学校教育年数に加え、大学卒業と同等以上の学力とあるが、学士を持っていなくても認められるケースがある.事実上、判断は各研究科に委ねられている.

 さらに研究生の位置づけもはっきりしない.国公私立大学大学院研究生の受験について調査したが、各大学院間ばかりか、学校によっては研究生の有無も含めて研究科ごとに異なっていた.大学院入試の準備段階と割り切るところ、純粋な研究者と位置づけるところと様々である.第三に留学生をサポートする担当者の育成の問題がある.国立大学では留学生センターの設置が進んでおり、制度的には専任者が配置されるしくみになっているが、大学内で担当者を育成するシステムが確立されてないだけでなく、この専任教官を単なる研究職のポストとして利用している学部もある.私立大学ではこのような教員ポストはほとんどなく、職員が留学生業務を担当している.人事異動があるため専任は難しいが、一部の留学生受け入れに積極的な大学では専門家を養成する動きも見られる.

 日本で最大の留学関係者組織、JAFSA(外国人留学生問題研究会)は、担当者育成として年2回の合宿研修および月例研究会を行い意識と質の向上に一役買っている.日米教育委員会も奨学生プログラムの中に国際教育交流職員の短期・長期プログラムを設け、アメリカで専門知識と技能の習得を行っている.これらの研修は今のところ民間で行われているだけだが、今後は国の補助事業として考えてはどうだろうか.

 アメリカのフルブライト元上院議員は、戦時中にアメリカが連合国に供与した物資の余剰分を売却し、それを資金として戦後すぐに「フルブライト奨学制度」を立法させた.他国との間で、人と人との交流を盛んにすることができれば、あのような戦争が再び起こることを防ぐことができるかもしれないという「相互理解の理念」からである.私も自分自身のフィリピン留学経験からこの理念に深く共鳴する.誰が、自分の友人がいる国、自分を温かく迎え育ててくれた国に銃を向けることができるだろうか.また仮にその国を好きになれなかったとしても、長所、短所は理解できるはずである.世界との関わりが密接な今日、世界各地に日本のよき理解者を得ることは重要である.留学生担当者として、日本において相互理解の礎となる人材が数多く輩出するよう尽力していきたい.

 高野靖子(たかのやすこ):上智大学卒業後、全国商工会連合会勤務を経て、松下政経塾入塾.現在、留学生担当助手として東京大学大学院法学政治学研究科に勤務.GEO-Global オーガナイザー

[本エッセーは、1998年1月発行の地域研究組織GEO Newsletter第2号に掲載されたものです]

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updated:2002.07.20