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マイカルの民事再生法申請に思う
荒木 裕一(アリックス・プロジェクト・マネジメント 代表取締役)

 昨日、テロ事件の余韻の強い中、ひっそりとマイカルが民事再生法の申請をし、潰れました。第一勧銀が最終的にバンザイをしたということですが、以前からいわれていた9月危機の現れかもしれません。

 今回は文化的な発想はあまりありませんが、気の付いたことを書いてみました。

 過去の同様な例からしても、実際はスポンサー探しが大詰めを迎え、負債を処理し新たなスポンサーが納得するよう形を整えるということかもしれません。いずれにしろ以前からあった土地信仰を母胎にした小売事業展開がまた一つ破局を迎えたということなのでしょう。

 マイカルも一般的にスーパーマーケットのカテゴリーの属するといわれていますが、以前、スーパーの公開関係の仕事をやろうとしたときにスーパーの定義による店舗形態、出店形態というのを勉強させられました。出店形態、ターゲットとなる顧客層、顧客層の状況、成熟度合い、住居環境、交通環境から小売というのは様々です。

 また、米国のショッピングセンターに関しても、あまり米国の大きな街に行ったことがありませんが、それでも行った時期によりモールが全盛であったり、パワーセンターが全盛であったりと様々ですね。

 作家でも有名なサミットストアの社長さんがスーパーマーケット概論なる本を書いていて、その中でスーパーを”家庭用食材の提供事業者”というように定義し、マイカルやダイエー、ヨーカドーが目指した巨大店舗、所謂GMS(General_Merchandising_Store)と区別してます。

 その本ではGMSは各交通の要衝毎に出店され、その本質は百貨店であり、本来三越とか高島屋等百貨店がその役割を負うべきであるという意見を出してます。当の百貨店は日本では高級路線を突っ走り、高級ブランドの民主化というところに活路を見いだしたようですが...

 スーパーらしいスーパー、すなわち家庭用食材提供事業者は(東はサミット、西では関西スーパーという名前を頭の中に刷り込まれ)これに徹している限り、家庭で食を提供しなくならない限りその事業形態はなくなりはしないという議論を展開されてました。

 家庭用食材提供というスーパーの努力は結構すごいものがあります。その店の店舗エリアの家族構成・年齢構成統計等から例えば食肉のパッケージのグラム数を調整したり、売り場での在庫状況からパッケージ化するまでの時間を適正化・最短化を図り、可動式トレイによるバックヤードと店舗のベルトコンベアー的連結等そのこだわりは結構すごいものがあります。このあたりのこだわりは、地元の商店でもなかなかなかったのではないでしょうか。地元商店街の沈滞化は一つはこのあたりの努力のなさに起因したのかもしれません。関西スーパーとか地味ですが今でもこつこつと利益を上げてます。

 この時代食品を中心としながら、衣料品も売る店、電気器具も売る店とか、立地により食品を中心としながら販売形態を変えてました。一時期スーパーの本質の食品事業と衣料品、電気・家具等々を別会社化し、出店状況によってその組合せを考えると行ったところまで考えてました。

 ちなみに、スーパーの最初の上場であるダイエーの申請の際には各会社毎に上場申請書を作ったものだと先輩から聞いたことがあり、それが小型トラック一杯だったとかという逸話がありますが本当のところはどうか分かりません。

 ただし、あくまでも食にこだわるのがスーパーの基本なので、家庭が変わり、家庭での食事の形態が変わり、出店形態で郊外店がでてくるあたりから出店の悩み、品揃えの悩みが始まります。食材の提供という観点からは個食とか弁当とかにはなかなか辿り着けないのかもしれません。

 スーパーの草創期以来、ヨーカドー型とダイエー型とどちらが勝つかといわれてきました。両者ともスーパー・GMSの理論的支柱であったペガサスの渥美さんとか船井総研の船井さんとかの優等生です。回転差資金理論(現金で売上、掛で仕入れることによる資金の差)を元に多店舗展開を図り、ヨーカド−もダイエーも上記カテゴリ−からするとスーパーからGMSへの道を辿ります。

 ただし、そこで決定的に異なったのは土地を取得しながら、土地の資産価値その担保能力に着目し多店舗展開を図り、買収・合併で系列化を図ったダイエー型と回転差資金理論から店舗運営には土地の取得は資金的に重荷であるという観点からあくまで店舗もコストという考え方にこだわったヨーカドー型の違いです。

 土地に付加価値を着けるには単価の安い郊外型店舗用土地に集客力を付け土地そのものの価値を上げるという手法が考えられます。マイカルが映画館とか遊園地とかを併設するという発想はそこから来たのかもしれません。ただし、この二束三文の土地に集客力を付け価値を上げるという手法は小売の本道からはずれ、ディベロッパーの範疇に属するもの思います。

 この手法で成功しているのは、住宅地の造成や山の中にスキー場を作り、ホテルを建て、ゴルフ場を作り冬場だけでも元を取りながら夏でも集客するという西武鉄道等だけではないでしょうか。ここでもホテル等は別会社化し、それぞれの業種としてこだわらせています。

 系列化も小売くらいドメスティックな商売はないという考えから、ヨーカドーは実質上買収したヨークベニマルも別会社方式を貫いています。

 今ではマイカルを含めてダイエー型でやってきたところは皆だめになってきてますね。”土地に利用価値以上の価値はなし”というのが私のお客さんの眼鏡屋さんの考え方ですが、最終的に日本でも真実だったようです。

 また、米国の優良小売ウォルマートも欧州では苦戦し、カルフールもフランス以外ではだめみたいです。小売って超ドメスティックでこだわりの商売かもしれません。

 ちなみに小売の有名なアナリストとしてUBSの松岡さんとともに名前を売り、2001年のアナリストランキングでもモルガンスタンレーディーンウィッター証券所属となっている清水倫典さんは、三重県伊勢地方を地盤とする”牛虎”というスーパーの長男で最終的に家をつごうと思い、フィリップモリスを辞める際にアナリストで小売の勉強をやろうかと思っていたのが未だにアナリストやっているというヤツです。

 あそこでご馳走になった松阪牛はうまかったですね。

【筆者プロフィール】
1954年、長崎生まれ.1982年学習院大学文学部哲学科(アメリカ哲学)卒業、大和証券入社、1983年より同社引受部・公開引受部で主にIPO等株式引受業務、事業組織変更業務(狭義のM&A)に従事.1998年7月同社退社、現在主に、株式公開サポート、事業創業サポート、事業組織変更サポートを個人でやってます。
参加した/するプロジェクトに関してはミッションとして必ず結果(トラックレコード)を出す事を信条としてます。暇を見つけては香港を拠点にアジア地域を歩き、会社、工場、市場を巡り、美味しいものを食べています。株式公開等会社とのディープな関係を結んできたキャリアから、仕事の対象としてきた会社群の産業史的位置付け、取引方法等の文化的癖を常に考えてます。
GEO-G代表の小田さんとは某マザーズ上場1号会社の公開サポート時以来の関係です。
メールアドレス;araky@dd.iij4u.or.jp

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updated:2001.09.24