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英語とのつきあい方
(2)英英辞典は必要か? ネットとPCを活用する
小田 康之 (GEO Global 代表・在サンフランシスコ)

最新版は外国語広場をご覧ください。


 前回の終わりに、PCやネットが外国語学習に画期的な影響をもたらしたと述べたが、辞書はまさにその恩恵を最大限に享受しているもののひとつだろう。

 英語辞典の最高峰 Oxford English Dictionaryなどは、紙の辞書では20巻にも上る。その上、値段も高いので、英語で飯を食っている人でもなければ、家人の抵抗にあうか、冷たい視線に耐え忍ぶかせざるを得なかった。これがCD-Rom版も出るようになり、置き場所の問題も解消され、値段も個人で容易に手が出せる範囲になったのは、なんと喜ばしいことだろう。

 PCのハードディスクにさえ入れておけば、膨大な辞書をいつでも簡単に使えるのだ。

 たとえば、私のPCには、英語の辞書関係だと、『ランダムハウス英和辞典』、『リーダーズ英和辞典』(『リーダーズ+プラス』)、『研究社英和・和英中辞典』、American Heritage Dictionary、 Roget's II New Thesaurus、 Collins Cobuild English Dictionary、 Webster's Third International Dictionary、 Oxford English Dictionaryなどがハードディスクに入っていて瞬時に検索できる。

 そのほか、スペイン語関係の辞書(Vox, Anaya)、国語・漢和辞典(広辞苑、小学館 Super日本語大辞典、漢字源)、日本語の百科事典(小学館日本大百科事典、平凡社世界大百科事典、マイペディア)、英語の百科事典(Encyclopaedia Britannica)、ビジネス関係のレファレンスなどが入っており、必要なときにいつでも調べものができる。

 また、ネットに接続しているときには、その他さまざまな辞書をネットを使って検索している。これも、家庭でのネット接続がダイヤルアップだったころには、あまり実用的ではなかったが、ブロードバンドの常時接続が一般化するに伴って利用価値が格段に高くなった。

 今でも紙の辞書から完全に解放されたわけではないが、PC以前の時代は、言葉を調べるのに今とは比べ物にならないほど、手間が掛かっていたし、どこでも手軽に調べるというわけは行かなかった。

▼ああ、辞書に埋もれる! 狭い机との格闘

 大学の学部の時、私はスペイン語圏地域研究を専攻していた。当然、連日スペイン語とつきあわざるを得ない。スペインで買い込んできた王立アカデミーのスペイン語辞典やマリア・モリネールという女性が編纂した少々ヒステリックな大型辞典などが机に並ぶことになった。今では小学生でももっとましなものをつかっているんじゃないかと思うような当時の私の狭い机の上は、2つも辞書を開くと満員御礼になってしまう。

 ひとつの単語を2、3の西和辞典で引くと、スペインの辞典ではスペイン語でどう定義してるかなと気になり、小型の西西辞典を紐解き、さらに王立アカデミーを広げ、マリア・モリネールに手が伸びる。この言葉、英語ではどうだったかなと、西英辞典やら英和辞典やらを使い、語源のラテン語の形を調べるために西羅辞典を開く。

 これ、みんな紙の辞書なので、引くのに時間も掛かる上、机から溢れた辞書は、近くのベッドを占領し、さらに床の上にも広がる。

 ノンフィクション作家の立花隆氏や山根一眞氏が、大きな机ではどれほど仕事がはかどるか書いているのを読んでは、畜生、早く大きな机を買ってやるぞ、などと思っていた。その学生机から脱却して大型机を手にしたのは、会社勤めをはじめてからだった。まさに金魚鉢から太平洋に解き放たれた金魚のような気分だった。

 だが皮肉なことに、商社マンなどという商売をやっていると、ようやく大きくなった自宅の机の上で王立アカデミーの辞書を広げるような日々は、ほとんどなくなってしまった。せっかく金魚鉢から出たのに、金魚は塩水では死んでしまった。

▼英英辞典は必要か?

 私自身、英検1級をとったのは大学生のときだったが、同じ頃に試しに受けたTOEFLの点数は、確か630点くらいだったと思う。このころまで、私は英英辞典を持ってはいたが、ほとんど使っていなかった。言い換えると、この程度の英語力であれば、英英辞典など使わずとも問題なく到達できる。もし、英英辞典を使わなければ英語は上達しないと、強迫観念に駆られている人がいるとすれば、そんな心配は無用だ。今日から幸せな日々を送っていただきたい。

 それに、これくらいの力だと、英語を母語にしている人を対象とした英英辞典では、定義に知らない言葉が多すぎ、再度その言葉を調べねばならず、引くのが億劫になるのだ。語義もどうもしっくりこないことがしばしば。

 当時は、私自身はほとんど使っていなかったが、英語を外国語として学ぶ人向けの良い英英辞典も今や多数出ている。もし使うのであれば、まずは、こういう英英辞典を使ってみるとよいだろう。英和辞典では、つかみ切れないニュアンスに触れることもできる。

▼英英辞典(英語が母語でない人向けの学習辞典)

 学習英英辞典として私がもっともお勧めするのは、Collins Cobuild(コウビルド)だ。普通の辞書のように見出し語を定義づけるというよりも、見出し語そのものを定義文の中にいれて、使われ方を解説する方法をとっている。Bank of Englishと呼ばれる4億語以上の実際に使用された言葉(コーパス)をベースにしているだけに、用例を多数収録している。また3対1の割合でイギリス英語のデータを中心としているが、アメリカ英語を主に学習人にも十分期待に応える内容だ。

 日本の英語学習者に人気にある辞書だけに、都内の大手の書店では店頭でも良く見かける。日本では、紀伊国屋書店が総代理店になっている。

 私は、CobuildのCD-Rom版をハードディスクに入れて使っている。このCD-Rom版は、English Dictionary for Advanced Learnersのほか、Thesaurusや500万語のWordbankなどが収録されていて重宝している。(ウェブ上で辞書のデータは公開されていないので、ウェブで検索することはできない。Bank of Englishの試用版のみウェブで使用可能。)<http://www.cobuild.collins.co.uk/>

 他に定評のある学習英英辞典としてLongman社のLongman Dictionary of Contemporary English やLongman Learner's Dictionary、Longman Advanced American Dictionary がある。定義文に基本2000単語のみを使用しているので、英語を母国語としない者にも分かりやすい。

 これらのLongmanの辞典は、ウェブ上で無料で引くことができるので、ネットに常時接続の環境にある人は大いに活用すると良いだろう。<http://www.longmanwebdict.com/index.html>

 Longmanには、そのほかにも英語を母語としない人向け(ESL:English as a Second Language)の学習辞書を多数出版しているので、次のウェブサイトを見ると良いだろう。
<http://occawlonline.pearsoned.com/bookbind/pubbooks/dictionaries_awl/chapter0/deluxe.html>

 Longmanのアメリカ英語の辞書では、「実用レベル」を目指す人はLongman Dictionary of American English、「上級レベル」や「最上級レベル」を目指す人はLongman Advanced American Dictionaryが使いやすいと思う。(レベルについては、本連載の第1回を参照。)

 自分から英語を発信する機会の多い人には、Longman Language Activatorもお勧めだ。Thesaurusとは異なり、言いたい概念やキーワードに関連する表現を調べることができる。

 昔から定評のある学習英英辞典としては、Oxford Advanced Learner's Dictionary。以前は、これがほぼ唯一のまともな学習英英辞典だったが、改訂を重ねて、内容も改良されてきている。私が学生時代に唯一所有していた学習英英もこれだ。当時は棚で埃をかぶっていただけだが。これも今はウェブで無料で引くことができる。<http://www1.oup.co.uk/elt/oald/>

 Cambrige International Dictionaryは、比較的最近出たものだが、とてもよくできている。これもウェブで無料検索できるので、活用しよう。<http://dictionary.cambridge.org/>

 学習辞典は、米国よりもイギリスが優勢だ。上記4社ともイギリスである。

▼英英辞典(英語を第一言語とする人向けの辞典)

 学習者向けではなく、英語を第一言語とする人向けの辞書も紹介しよう。学習辞典は、語源の解説が弱いので、その分は下記の辞書などを参照すると良いだろう。すでに一定以上の語彙力のある人にとって、さらなるボキャブラリーの増強には、語源への目配りが必須である。

 私が良く使うものとして、Merriam-Webster Collegiate Dictionaryのウェブ版がある。この辞書は、日本で言うと広辞苑のような感覚で、大型辞典としては米国の家庭に最も普及している辞書だろう。このウェブ版は、無料な上、Thesaurus(類義語辞典)とも連動していて使いやすい。発音が聞けるのも便利だ。語源の解説もボキャブラリーの増強に役立つ。<http://www.m-w.com/>

 American Heritage Dictionary of English Languageも、米国で定評がある。私は紙の英英辞書として唯一手元において使っているのは、この辞書の小型ペーパーバック版だ。

 このオンライン版は、さまざまなレファレンス資料や古典文学、ノンフィクション作品などを無料公開しているBartleby.comのサイトにある。ThesaurusやQuotations、English Usageなどとも連動していて利用価値が高い。<http://www.bartleby.com/61/>

 マイクロソフトが百科事典として売り出したEncarta(エンカルタ)のブランド名の英英辞典 Encarta World English Dictionary も最近書店で見かけるようになった。このウェブ版は、比較的使いやすい。発音の音声もWAVとともにMac向けのAIFFでも提供されている。<http://dictionary.msn.com/>

 英語以外にも、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語などのEncarta百科事典やそれぞれの言語と英語の2ヶ国語辞典もある。<http://encarta.msn.com/Worldwide.asp>

▼大型英英辞典(こだわる人向け)

 通常英語を使うだけなら、上記で紹介した辞典で十分だ。『最上級レベル』を目指す人でも上記のMerriam-Webster CollegiateやAmerican Heritageのような辞書を使っていればまったく問題ない。

 だが、翻訳者のように言語を職業としている人や、調べるなら深くといういう人は、下記の2つも常備しておくとよい。CD-Romなら場所もとらないうえ、手軽に調べられる。

 Oxford English Dictionary 2nd Edition。OEDとして知られる英語辞典の最高峰。用例の初出年や時代による変遷を見ることができ、英語の歴史辞典として使える。CD-Rom版は、以前までのバージョン(Version 2.0)だと、ハードディスクから検索できないうえ、毎回CD-RomをPCが認証する手順があったため、使いづらかった。バージョンが新しくなり(Version 3.0)、この問題が解消されたのは喜ばしい。CD-Rom版は、250ポンド(+税)または295ドル。ウェブでの使用は、年間 350ポンド(+税)または 550ドル。<http://oed.com/>

 米国での最大の辞典が、Webster's Third New Internationa Ditionary, Unabridgedだ。紙でも1巻本なので、OEDに比べると小ぶりだが、CD-Romによる検索の便利さはこの上ない。値段も実売50ドルほど。ウェブで使用は、年間 29.95ドル、月間 4.95ドル。 2週間の試用期間もある。<http://m-w.com/>

▼どこで手に入る?

 上記で紹介したそれぞれの版元が直接販売も行っていることが多い。ただ、直販より、他のオンラインショップの方が安いケースもままあるので、いくつかあたってみた方が良いだろう。ショップは多数あるが、参考まで例を下記してみる。

 おなじみAmazon JapanやAmazon.com、紀伊国屋でもかなり扱っている。<http://amazon.co.jp>
<http://amazon.com><http://bookweb.kinokuniya.co.jp/>

 また下記のオンラインショップなどは、辞書を専門にしているので品揃えも良い。

・TransRadar電子辞書ショップ
レファレンス書で有名な日外アソシエイツのオンラインショップ。
<http://www.nichigai.co.jp/translator/Welcome-j.html>

・eLearnAid
米国ロサンゼルスを本拠とするオンラインショップ。世界中に発送。
<http://www.elearnaid.com/>

▼電子ブックやCD-Romをまとめて検索するには

 日本で発売されているCD-Romや電子ブックは、EPWINGという統一規格で作られているものが多い。これらは、DDwinというフリーソフトでまとめて串刺し検索(複数の辞書を同時検索)することができるので便利だ。但しEPWINGは日本独自の形式のため、海外のCD-Rom辞書は対応していない。また日本のものでも独自規格のものもあるので、その場合はDDwinは使えない。

■DDwin<http://homepage2.nifty.com/ddwin/>

 私は、以前より使っていた電子ブック(ソフトは8cmCD-Romがケースに入っているもの)の辞書をPCのハードディスクにコピーし、DDwinでまとめて串刺し検索ができるようにしている。

 次のサイトは使い方を手順を詳しく解説している。

■電子辞書の森<http://homepage2.nifty.com/thakata/index.htm>

▼オンラインで使える英和・和英辞典

 ネット上にて無料で使える英和・和英辞典も増えている。以下、いくつか紹介しよう。有料サービス末尾に2つほど付け加えておく。

■英辞郎
英和:見出語総数59.7万語 和英:見出語総数68万語弱。アルクのサイト。収録語数が多いのが売り。ただし内容の信頼性にかけることもあり。Nifty会員はデータをダウンロードしオフラインで使うこともできる。また、データの入ったCD-Rom付きの書籍も発売されている。
<http://www.alc.co.jp/>

■研究社英和・和英中辞典(Excite英和辞書)、英和コンピュータ用語辞典
<http://eiwa.excite.co.jp/>

■Lycosディクショナリ プログレッシブ英和・和英中辞典
英和:11.5万語収録 和英: 7万語
<http://dic.lycos.co.jp/>

■goo英和辞典 EXCEED英和・和英辞
12万語収録。 <http://dictionary.goo.ne.jp/cgi-bin/ej-top.cgi>

■英和・和英学習基本用語辞典
数学、物理、歴史、科学、生物の用語の検索。アルクのサイト。
<http://www.alc.co.jp/ge/yougodb/index.html>

■ビジネス英語辞書
英和・和英 約1.25万語収録 Nikkei BPのサイトにあるアルクの辞書。
<http://www.nikkeibp.co.jp/spacealc/>

■ RNN時事英語辞典
時事英語。検索のほか、カテゴリーや注目の話題からも調べられる。
<http://rnnnews.jp/>

■生きた訳語・活用・用例の辞典
英引き・和引き可能。古今東西の小説の用例を具体的な文脈で。 山岡洋一氏編。
<http://www.idd.tamabi.ac.jp/corpus/yourei/index.htm>

以下は有料サービス

■三省堂 Web Dictionary: sanseido.net
英和・和英では次の辞書を揃えている。
グランドコンサイス英和辞典 新グローバル英和辞典 エクシード英和辞典
ニューセンチュリー和英辞典 エクシード和英辞典 
<http://sanseido.net/>

■電子ブック閲覧室「私の仕事部屋」
英和・和英では、
リーダーズ+プラスV2  新編英和活用大辞典
の閲覧ができる。
<http://www.so-net.ne.jp/myroom/>

 CD-Romやオンラインで使用可能な辞書を中心に紹介したが、学習者にとっては、紙の辞書も捨てがたい魅力がある。手垢で汚れ、背表紙が崩れた辞書は、自らの学習の軌跡を物語るようで、ある種の達成感を抱かせる。それが、私についつい紙の辞書も手元におかせる所以だろう。

【筆者プロフィール】
メールアドレス:oda@geo-g.com
詳細は、<http://yasuoda.com> をご参照ください。

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updated:2002.08.10