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ラクダと歩く灼熱荒野
渡辺真帆(コミュニケーション・コーディネーター)
9月23日
 灼熱の太陽の下、ピースボートは今朝の早朝にアフリカ大陸はエリトリアのマッサワ港に入港した。エリトリアはエチオピアの隣に位置するとても小さな国で、1993年に30年にわたるエチオピアとの独立戦争を経て、ようやく独立を勝ち取り新国家を建設したという、まだとても若い国である。1995年の初訪問以来、ピースボートはこれまでもう9回寄港してきている。

船から窓の外を見ると、気温が相当高いのだろう、港が光で真っ白に光っている。ボランティアスタッフや参加者たちが、ピースボートが運んできた乾パンなどの援助物資を早速船から降ろしている様子が見える。しかし事前の寄港地レクチャーの中で話は聞いていたが、本当に気温がものすごく高く、船の中のエアコンもほとんど効かないような状態である。朝の時点で気温は40度くらいで、エリトリアの人々ですら暑すぎるため休憩を取るというお昼から4時までの時間は、軽く50度くらいまで上がるらしい。話を聞いただけでも、恐ろしい。
 今日の午後の4時からの、「灼熱荒野でラクダ体験」というまたまたヘビーそうなオプショナルツアーの通訳担当になってしまった私は、午前中にフリータイムができたので、CC(コミュニケーション・コーディネーター通訳)の仲間達と一緒にマッサワの旧市街をお散歩することにした。旧市街はマッサワでもっとも古い街がある地区で、16世紀頃建てられたモスクや、エチオピア軍の戦車によってボコボコになってしまった元銀行として使われていた建物や、郵便局やバスターミナルなどを見ることができる。

 港から出てそろりそろりと旧市街を歩き出すと、エリトリア人達が珍しそうな顔をしてじいーっとこちらを見ているのに気づく。しかしほとんど全ての人が、その後嬉しそうに歯を見せて笑って、手を振ってくれるのが嬉しい。ひどい貧困状態にある、まだ建国中のエリトリアなのだが、観光客慣れをしていないためだろうか、人々の心が綺麗なのだろうか、人々の笑顔は本当に美しい。よく世界の様々な貧困の地を訪れた人々が、子供達の目が観光客のお財布にギラギラと釘付けになっていたなどと言うのを聞いたことがあるが、エリトリア人の、得に子供たちの笑顔は本当に邪のない美しいものに思えた。街中を歩いていると、「きゃーっ!」という歓声と共に小さな子供達が走ってきて、私達の手の中に彼らの小さな手をもぐりこませて来る。私達の顔をうれしそうに見上げながら道の端まで一緒に歩いてきて、その後大きくバイバイと手を振って去って行く。「この国にはあんまり外国から人が来ることがないから、あの子たちは本当にうれしくってしょうがないのよ」 と鮮やかな布を腰に巻いた女性が笑顔で教えてくれた。

 その後小腹が空いたので、私達は小さなレストランに入り、コーラと、インジャラと言う食べ物を注文してみた。インジャラはエリトリア人の主食で、ケフというゴマに似た植物の種を焼いたもので、見た目は灰色で一見布切れのように見える。発酵しているのでお酢が入っているみたいに酸っぱくて、そのインジャラの上にトマトソースで煮た挽肉、野菜や魚などの具を乗せて食べる。インド料理のナンにカレーを乗せて食べる感じに似ている。毎日食べたいとは思わないけれど、なかなか面白い味だと思った。
 一度船に戻った後、オプショナルツアー時の通訳スタッフ用の赤いポロシャツに着替えて、40人ほどのお客さんを連れてラクダ達の待つ荒野を目指して出発。英語のなかなか上手な現地ガイドさんに市街地の歴史などを話してもらいながら、30分ほどかけてラクダの待つポイントに到着。バスの窓の外を見ると、突然何もない荒野に40匹ほどのラクダと40人ほどのラクダ使いの大人や子供が現れて、思わず私もお客さんと一緒に「おおおーっ!」と歓声を挙げてしまった。
 “アフリカにいるラクダ達はコブが一つで、暑さに強いがあまり人の言うことを聞かないし、ちょっとオツムが弱い”のだと添乗員さんから聞いていたが、ラクダ使い達の側でぐた〜っと座りこんで大きな口をモゴモゴやっているラクダ達は、私にはとってもキュートに見える。ピースボートに乗ってから一度も人以外の動物を見ていなかったので、ラクダが40匹もいるのがとってもうれしい。

 お客さん達を順番に乗せたラクダ達は、次のチェックポイントまでポックリポックリと歩き出す。私と添乗員さんも最後に余った2頭のラクダに近づいて、跨ってみる。「しっかりつかまっていなさいよ〜!」とラクダ使いのおじいさんがジェスチャーで示してくれるので、私もしっかりとコブの辺りにつかまる。“ほいよ!”と言った掛け声と共にラクダが後ろ足から、急にグ−ンと立ち上がって、いきなり目の高さが3メートルくらいになって驚いた。なんじゃこりゃ。高いし、ガクガク揺れるし、めちゃくちゃ怖いじゃぁないか。ラクダをパチパチと木の枝のようなもので叩きながら進むラクダ使いのおじいさんに引かれて、私の乗ったラクダはのっそりのっそり歩いて行く。初めの5分ほどはラクダの上でバランスを取ろうと必死にがんばっていたのだが、その内力を抜いてラクダの揺れに身を任せると楽だと言うことに気がついた。バランスがすっかり取れるようになると本当に楽チンで、鼻歌なんかを歌いながらすっかりご機嫌である。頭の上で太陽がギラギラと照りつけて頭がぼおーっとしてくるが、とにかく通訳で来てるのなんてすっかり忘れて、30分ほどラクダとの時間を堪能した。

 その夜は仕事がなかったため、CCの仲間達ともう一度街に出て、昼間仲良くなったバーのママさんのお店に遊びに行った。彼女の作ってくれたマッサワ名物の強いカクテルを飲みながら、エリトリアでの生活や、新国家での現在の政府の市民への抑圧の状況などを話し合い、夜はすっかり更けて行った。

 初めて訪れたアフリカ、しかもできたばかりの国家であるエリトリアを訪れることができたことは、本当に私にとって意味のあることだと思った。いつかぜひもう一度来たいと、強く思った。
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updated:2002.11.25