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ご立腹”ミイラ”とのご対面
渡辺真帆(コミュニケーション・コーディネーター)
9月28日
 半日ほどかけてゆっくりとスエズ運河を渡ったピースボートは、昨晩遅くエジプト、ポートサイドに入港した。エジプトでは我々CCはなんと、これまでの仕事に対する“ご褒美”をもらえることになっている。うれしいことに仕事はなしで、しかもGETと言う船内の英語学校の先生達や、IS(紛争地から来ている国際奨学生達)と共にタダでカイロに連れて行ってもらえることになっている。あの有名なギザのピラミッド群やスフィンクスや、それから考古学博物館なんかに連れて行ってもらえるらしい。かなりうれしい。随分朝早い出発だったけれど、仕事の時とは違ってみんな意気揚揚と集合場所に集まってきて、7時頃には我々の乗った“英語バス”は銃をぶら下げた警官達の乗ったジープに護衛され、カイロに向けて出発した。
 英語の達者なガイドさんに、ピラミッドの話や人口1000万人を超える大都市であるカイロの説明をしてもらいながら、バスは2時間半ほどかかってギザのピラミッド群に到着。実は小さい頃“王家の紋章”と言う少女漫画のファンだった私は、カイロに来るのがとっても楽しみだった。アメリカ人の少女キャロルが古代エジプトに迷い込んで若いファラオと恋に落ちる、と言ったようなスケールのでかい話だったのだが、古代エジプトの描写がとても綺麗で私は大好きだったのだ。バスを降りて、まず一番大きいと言われているクフ王のピラミッドの前に立ってみる。思っていたよりもサイズが小さいような気がするが、でもやはりあの三角形が神々しい。奴隷達が何十年と言う時間をかけて石を一つづつ積み上げてこれを作ったのかと思うと、手を合わせて拝みたいような気持ちになる。いずれにせよ、これは王様のためのお墓なのだと思い出して、とりあえず手を合わせてお念仏を唱えておいた。

 更にカフラー王のピラミッド、メンカウラー王のピラミッドを見たあと、バスに再び乗って5分ほどでスフィンクスの鎮座している場所に到着。さすがスフィンクス。頭は人間、体はライオン!ド迫力。ISの子達も各々大興奮で“ぎゃー!わー”と、セルビア語やらヒンズー語やら色んな言語でなにやら感動を表現している。パキスタンから来たお調子者のジニ−は、覚えたばかりの関西弁で、“なんっでやねぇん!”とスフィンクスに何度もつっこみを入れている。そのうち誰かがポーズを取ってスフィンクスとキスをしているような写真を取りだし、みんな取りたい、取りたいと大騒ぎになり、更にはスフィンクスをパンチしているような写真を取り出す輩もいて、かなりの盛り上がりのうちにギザを後にした。

 午後は食事のあと自由時間になり、私はエジプト考古学博物館に行くことにした。かの有名なツタンカーメンの黄金のマスクが展示されており、多くの財宝が置かれているらしく、くまなく見て回るには丸一日かかると言われたが、2時間しかないので早速お目当てのミイラ館に行くことにした。

 ミイラ館入場は別料金で、しかもカメラなどはロッカーに預けてから入場することになっている。10体ほどのミイラが眠るミイラ室はひんやりと冷たく、厳かな雰囲気が漂っている。ついにミイラとのご対面。思わず背筋がしゃんとする。ガラスケースの中のお棺の中に横たわっている乾いた木のようになったミイラ。見た瞬間に、胸がどきんとして目が離せなくなった。数千年という時間を眠りつづけているはずのミイラなのに、その体からものすごいパワーを発しているのだ。冗談のように聞こえるかも知れないが、本当にまだ生命力のようなものを持っているように感じるのだ。しかも、あまり心地よいパワーではなく、言ってみればマイナスのパワー。そう、彼らのカラカラに乾いた体から発せられていたのは、怒りのような感情だった。

 私と一緒にミイラ館に入ったメキシコ人CCのイチローも同じことを感じていたのか、ミイラをじいーっと凝視した後、「なんかすっごい疲れちゃう、なんでだろう?」と暗ムい顔をして言っている。他の観光客の人達も果たして同じように感じていたのかは定かではないが、私にはミイラ達は、まだすごくその体に思いを宿していて、しかも決して成仏していないように思えた。考えてみれば、彼らは静かにお墓の中で眠っていたところを叩き起こされ、いきなりスポットライトを当てられて毎日何千人という観光客の目に晒されているのだ。うれしいわけがない。

 ミイラ館の中をぐるりと回ってみたが、やはりなんだか心地が悪くて、しかもそのうちお腹が急に猛烈に痛くなって、せっかく別料金を払ったのに我慢できずに10分弱で外に出てしまった。急いでトイレを探して駈け込んだが、お腹を壊してしまったらしく、残りの自由時間はずーっとトイレで過ごした。

 お腹を壊してしまったのは全くもって計算外だったけれど、それでもミイラを見ることができて良かった。人の念と言うのはつくづく強いものだなと、改めて思った一日だった。
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updated:2002.11.25