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ラボキージャ村で大捕り物
渡辺真帆(コミュニケーション・コーディネーター) |
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10月23日 | |||||
キューバの興奮も冷めやらぬ23日早朝、ピースボートはコロンビアのカルタヘナ港に到着。入港後間もなくいつものようにミーティングに入った我々スタッフは、コロンビアの治安の悪さと、それに対応する心構えをもう一度聞かされた。窓から見える穏やかな港の様子や目の覚めるような美しいカリブ海を眺めていると、“今回のクルーズの寄港地の中で一番危険です”などと言われてもあまり現実感が沸いてこない。この国が抱えている国内紛争や麻薬問題などの深刻な話が、なんだか嘘のように思えてくる。 今日の私の通訳担当は、オプショナルツアーBコース、“マングローブの村へ”である。このコースの目玉はマングローブの生い茂る水路を手漕ぎボートで進むというもので、私も密かに楽しみにしていたツアーである。いつものCCの赤いポロシャツに着替えて、9時半頃チーバスというローカルバスで港を出発。私の乗った2号車のガイドさんは、サンディーと言うマッチョで笑顔の可愛らしい褐色のおじさんである。窓ガラスなし、エアコンなしのチーバスにギョッとしている参加者達に、恐ろしく大きな声でカルタヘナの街を案内してくれる。 |
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午前中はカルタヘナ旧市街散策と言うことで、ボリーバス広場の近くでチーバスを降りて石畳の路地を散策する。世界遺産に指定されているという旧市街は長さ4キロにも及ぶ城壁に囲まれており、古めかしくて、でも豪華な独特の雰囲気を残している。路地を見上げると、各家や店のバルコニーには色とりどりの花が咲いていて、見ているだけで楽しい気分になってくる。旧市街に住む人々は建物の景観に大変こだわりがあるそうで、街で一番美しいバルコニーを選ぶコンクールや、変わった形のドアノブを選ぶコンクールなどもあり、得にクリスマスシーズンはデコレーションで街中が華やかなのだとサンディーが教えてくれた。 旧市街を出た一行は、今日のメインであるラボキージャ村に向かう。ラボキージャ村は漁業が盛んな村で、住民はほとんど全てが黒人である。サンディーの話によると、村の女性が妊娠する平均年齢は14,15歳と大変低く、大抵の家庭は大家族なのだそうだ。そして村の治安はあまり良くないと言うことだ。窓から村の様子を眺めていると、なるほど大勢の裸の子供が海辺で走りまわっている。「なんでこんなに子供が多いかって言うと、この村ではみんな魚ばっかり食べているから、魚ばっかり食べているとエッチな気分になって、セックスが盛んになるんだ」 といきなりサンディーが真顔で耳打ちしてきて、ぎょっとした。「冗談でしょ?」と聞くと、「本当、本当。早く通訳して」と大きな目玉をきょろきょろさせて大真面目である。そんな話、聞いたこともない。仕方がないので、「この辺りの人達は魚をよく食べて、それと子供をたくさん産むそうです」と言っておいた。 レストランで魚の昼食を取ったあと海辺に着くと、すでに手漕ぎボートが用意され、大勢の村の人達が集まっている。本当に子供の多い村で、アジア人が珍しいのか大きな目を更に真ん丸くしてこちらを見ているが、手招きするとニコーっと笑って走って抱き付いてくる。とっても可愛い。船頭さん達はスペイン語しか話さないということで私も通訳ができないので、参加者と一緒にボートに乗らせてもらえることになった。4人一組になってボートに乗りこみ、マングローブの茂る水路をどんどん進んで行く。想像していたよりもスピードが出るもので、涼しい風を切ってスイスイと水面を行くと、とても気持ちが良い。結局一時間近くボートに乗った後、ラボキージャ村に戻り、村の人たちに挨拶をして、港に戻るためにチーバスに乗りこんだ。と、ここまでは100点満点のツアーだったのだが、この後とんでもないことが起こることになる。 マングローブをすっかり満喫した笑顔の参加者達を乗せたチーバスがゆっくりと走り出すと、すっかり仲良くなった村の子供や若者が一緒に走りだし、中にはバスのステップに飛び乗って付いてくる子供が数人いると言った大変賑やかなことになった。なぜだか心配そうな顔付きのサンディーを尻目に、参加者達も子供達と手をつないだり、日本語を教えてあげたりと和気藹々で交流を楽しんでいる。その時である、突然チーバスの後方から、“ギャ−!”という女性の声が聞こえてきて、時が止まった。 見ると20代後半くらいの女性が、わなわなと震えながら何か叫んでいる。「あの子よ、あの子が私の金のブレスレットを盗んで行った!」見ると13歳くらいの少年が猛ダッシュでバスの反対方向へ走って行くのが見える。慌ててドライバーとガイドのサンディーに「バスを止めて!」と叫ぶと、一瞬で状況を把握したらしいサンディーが、「マホ、行くぞ!」と叫んで私の手を掴んでバスを飛び降りて走り出した。盗人のオレンジ色のティーシャツを着た少年は、遥か先の方を走って行く。私もマッチョなサンディーについて必死で追いかけるが、その少年の足の速いこと、速いこと、すぐに姿が見えなくなってしまう。何が起きたのか分からない参加者たちの乗ったチーバス2台をそのままそこに残して行くのも不安だったが、仕方がないのでとにかく走った。 少年はどんどん村の狭い道を行くし、すぐに姿が見えなくなってしまう。夢中で少年を追いかけていると、どんどん周りの景色が変わってきて、なんだか怖くなってきた。治安のものすごく悪いというコロンビアの村で、私は汗だくになって何をやってるんだろ?自分の心臓のドキドキという音が、静まり返った村に響いているみたいだ。サンディーが、「ダメだ、もう警察に頼もう」と言ったので、バスの方に引き返すことにした。 バスに戻ると、ブレスレットを盗まれた女性がオロオロと立っており、もう一台のバスのガイドさんが無線で何か連絡しているのが見えた。彼によると、盗みを働いた少年の手助けをした別の少年はすでに逮捕されており、警察所で尋問を受けていると言う。私達が必死に走っていた10分ほどの間に、もう既に一人逮捕されていたと聞いて、コロンビア警察の迅速さに驚いた。その後、参加者達はチーバスで先に港に戻り、私と被害者の女性は無線で呼ばれてきたツアー会社の車に乗って警察署に向かい、状況説明をした後に港まで送ってもらって、帰船リミットぎりぎりに帰ってきた。結局ブレスレットを盗んだ少年は見つかっておらず、もしもブレスレットが見つかった折には、次の寄港地に送ってもらうようにと頼んできた。 やっぱりコロンビア、ただでは済まなかったなあ。急に走ったせいですでに筋肉痛が始まったらしい足をマッサージしながら、一人船室でぼんやりと思った。 |
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updated:2002.11.25
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