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メルマガ/vol.19
2002.06.19 |
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Contents
(1)「植民地宗主国としてのフランス紀行(3)」 |
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みなさん、こんにちは。サンフランシスコの小田です。
ワールドカップ、残念ながら日本は敗退してしまいましたが、凄まじい盛り上がりようですね。当地のテレビでは、なぜワールドカップが米国では盛り上がらないか、という議論の方が盛り上がっているという奇妙な現象になっています。 そのワールドカップでは優勝候補として順当に勝ち進んでいるブラジルですが、本国の経済は大変なことになっています。その大きな理由は、この10月に行われる大統領選挙の見通しにあります。 世論調査で、与党のブラジル社会民主党のセーラ(Serra)を、左翼のブラジル労働党のルーラ(Lula)が大統領候補として大きくリードしているのです。ルーラが大統領になったら、どんな経済政策をとるか分からないというので、通貨レアルは下落を続け、金利は上昇。他国への影響も大きい国だけに、今後の成り行きに注目するとしましょう。 さて、今号は笹川秀夫さんのフランス紀行の第3回目。アジアの美術品を集めるギメ美術館、さてその展示品のプレートに表示される年号から浮かび上がる事実とは... もう一つは、GEO Globalの行事ではありませんが、講演会のお知らせです。東京・四谷で開催される地域研究(Area Studies)に関するもので、東南アジア、中東・北アフリカ、ラテンアメリカのそれぞれの地域の専門家によるお話。カンボジア・アンコールの発掘調査や研究で高名な石澤良昭教授も講師のお一人です。平 小田康之(oda@geo-g.com) |
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────────────────────────────────────── ★「植民地宗主国としてのフランス紀行(3)」 笹川 秀夫(日本学術振興会特別研究員) ────────────────────────────────────── 1ヶ月間の滞在を終え、6月10日にフランスから帰国しました。最後まで資料集めを続けた結果、終盤にわりと忙しくなったため、滞在中に続きをお送りできませんでした。でも、南仏に赴く前のパリでの出来事に関して、まだもう一日分だけ書けそうなことがあります。まずは、その話から。 ▼5月19日、ギメ美術館にて ギメというのはアジアの美術品だけを専門に集めた美術館で、ガイドブックにも載っているから、行ったことのある方もおられるでしょう。90年代末にしばらく改装工事をしていて2000年に再開したので、以前ぼくがフランスに行ったときにはまだ閉まってました。だから、ぼくが中へ入ったのは、今回が初めてです。 入ったのは初めてでも、5〜6年前に東京と大阪でアンコール美術の展覧会が開かれた際、ギメの収蔵品が展示されていたのを目にしています。そして、この展覧会にも出展されたアンコール時代の彫刻や彫像こそが、ギメ美術館で最大の見物といえます。美術館側もそう考えているらしいことは、正面玄関を入るとまず1階中央にアンコール美術の展示室があることからもうかがえます。 カンボジアを専門にしている以上、当然これらのアンコール美術について語ろうと思うわけですが、カンボジアはカンボジアでも植民地時代のことを調べているからには、注目する点は普通と違ってこざるをえません. では、今回ぼくが何に注目したかというと、彫刻や彫像そのものよりも、それらに付けられた小さなプレートの説明文です。その彫刻がどんな名前の神さまなのか、どんな場面なのか、何世紀ごろ彫られたのかといった項目が、美術館の説明用のプレートだから当然書いてあります。そのほかにぼくの目を引いたのは、その彫刻をいつごろ誰がカンボジアから持ってきちゃったのか、そして何年にギメへと納められたのかが、プレートの一番下に小さな文字で書いてあることでした。 いくつか例を挙げましょう。まず、1873〜74年に行なわれたルイ・ドラポルトの調査によるものが複数ありました。このドラポルトという人物は、メコン川の源流をたどって中国まで行けるか、そして中国と仏領インドシナとの間に通商ルートを開けるかを調べる調査隊に参加しました。後には、アンコール遺跡を調べること、彫刻を持ってきちゃうことを目的に調査団を組織して、カンボジアを再訪しています。著書が日本語訳されていますね。『アンコール踏査行』(平凡社東洋文庫)という題です。このドラポルトの調査(もしくは略奪)によって得られた彫刻や彫像は、1931年にギメに納められたとありました。 それから、1882〜83年にエティエンヌ・エイモニエによってなされた調査によるものもいくつかありました。エイモニエという人は、行政官としてベトナムやカンボジアに赴任し、赴任先に関する研究書や論文を多数残しています。植民地の研究が、まずは行政官によって始められ、その研究成果が支配に利用されるというのは、ベトナムやカンボジアに限らず広く見られる現象です。このエイモニエが入手した彫刻類が納められたのは、1890年ということでした。 そのほか、フランス極東学院の収蔵品が、1922年、1931年、1936年に納められたという記載もありました。また、何年に納められたかは書いてなかったものの、前回に言及した植民地博物館(現、アフリカ・オセアニア美術館)の収蔵品だったものもあります。 ギメに納められた年にしつこく言及してきたのは、それらの年号に意味があると考えるからです。というのは、1889年、1922年、1931年、1937年に万博や植民地博覧会が開催され、アンコールの彫刻や彫像が展示されています。ギメに納められた年号は、いずれもこれらの博覧会と同じ年か、その直前・直後。そこで、「ははーん、博覧会で展示したものを、ギメで飾るようになったんだな」と思い至った次第です。 植民地の調査や研究、美術品の収集(あるいは略奪)、美術館、博覧会が相互に密接な関連をもつことが、彫刻に付された小さなプレート、そのプレートに付された小さな文字の説明文から読み取れます。 ▼5月21日から、エクサン・プロヴァンス、海外公文書館にて 5月20日にパリを離れ、南仏のエクサン・プロヴァンス(以下、「エクス」と略)に赴きました。パリからマルセイユまでTGVで3時間少々、マルセイユからエクスまでは高速バスで30分の道のりです。 エクスへ行ったのは、そこに植民地に関する役所の公文書などを収める海外公文書館というのがあるからです。ここ2〜3年、足しげく通ってきたプノンペンの公文書館で欠けている資料を見ることなどが目的で、この海外公文書館に2週間ちょっと通いました。植民地時代に出された役所の手紙や電報は、今日のフランスに残るコロニアルなものという意味では、これ以上コロニアルなものはありません。でも、どんな資料を見て、それをどう使うつもりかについては、あまりに細かい話になるので割愛させてもらいます。 こうして公文書館に通っていると、同業者さんと知り合ったりもします。今回も、ラオスを専門にするデンマークの男性や、アルジェリアとチュニジアを専門にする日本人留学生2名と知り合いました。いろいろ話をすると、研究に直接関わることで刺激や情報を得られる以外に、今日のフランスに残るコロニアルなもの探しという点でも情報が入ってきたりします。フランスによって植民地にされた国や地域を専門にしている以上、現在のフランスに対する見方や、フランスの何に注目するかも似てくるみたいです。 ▼5月26日、マルセイユにて 土日は公文書館が休みなので、5月26日の日曜日はマルセイユに出掛けました。出掛けた目的は、駅入口の階段にある植民地を描写した彫刻を見ることと、歴史博物館や海洋博物館で1906年および1922年にマルセイユで開催された植民地博覧会に関する情報が展示されているかを確認すること。 まず彫刻の方は、マルセイユの中心駅にあたるサン・シャルル駅に登る階段の脇にありました。「アジアの植民地」とかってすごい名前がついて、カンボジアの王女さまだか女神さまだかが彫ってあります。「アジアの植民地」が階段の左側にあり、右側には「アフリカの植民地」という彫刻があるんですが、現在はこの階段も含めて工事中で、アフリカの方は近づいて見ることができませんでした。この彫刻の製作年と植民地博覧会が関係あるかと思い、階段にはめ込まれたプレートを見てみたところ、植民地博覧会と直接の関係はなさそうでした。 博物館はショッピング・センターの中にあったりして、日曜休みだったので、6月1日の土曜にまた出かけることにしました。 ▼5月31日、フランス敗戦をめぐって 5月31日、ワールド・カップの開幕をフランスで迎えることになりました。前回の優勝国にして、開幕戦の栄誉に浴したフランスは、ご存知の通りいきなりセネガルに負けました。フランス時間で昼の12時半に試合開始だったので、公文書館にいてテレビ中継は見ませんでしたが、さすがにその時間帯の公文書館は、いつもより心なしか調査者の数が少なかったように思います。 その日の夜、テレビでスポーツ・ニュースを見ていたら、かつての植民地宗主国フランスに勝って大騒ぎするセネガル本国の人々に関するニュースのほか、マルセイユに住むセネガルからの移民が喜んでいる映像も流れていました。フランスが負けただけでも面白くないのに、国内にいる移民がフランスに勝ったことを喜ぶ映像を見せられて、腹をたてたフランス人も多いことでしょう。こういう日常の小さな政治が、移民排斥とかっていう大きなうねりを生み出すんだろうなあと感じさせられた次第。 さて、5月分まではなんとか話が終わりました。今回はここまでにして、6月分は次回にさせてもらいましょう。 |
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updated:2002.06.19
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