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スペイン・サンチアゴ巡礼の道
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III. 旅日記から

<< 第9行程 : 11月6, 7日 - Leo'n - Villadango de Pa'lamo - Astorga (53km) >>

(11月6日(土) 曇り時々晴れ→曇り時々雨)
13:00
 体調はよくなったが、力が入らん。ガイドブックの道とは違うところにいる。少し寒い。

14:45
 道を間違えたらしい。病み上がりにはちときつい。

18:30
 5時にやっとビジャダンゴ Villadango de Pa'lamo の救護所につく。疲れ果てていたが今はそうでもない。体調は回復しつつある。
 今までの失敗を道すがら思い出しては「畜生!」とつぶやいていたが、後悔は何の役にもたちはしない。巡礼者はあとを振り向かない。俺もそれに従おう。今ロンセスバージェスからきた2人の巡礼者がついた。俺がノートに書いたのを見ながら来たのだという。嬉しいことだ。だんだん増えてきた。どれもまた面白い。

21:00
 また4人やってきた。これで今日はここに11人いる。変な嫉妬心がおこる。俺もガキだな。道を独り占めしたいとでも思っているのだろうか。日本人の俺が。そこでふと疎外感を味わい寂しくなる。変な気持ちだ。旅もここにきて荒れてきたな。俺は一人の巡礼者、一人の巡礼者として歩き続ける。

(11月7日(日) 晴れ)
8:15
 体調は回復。天気はいい。とてもきれいだ。さあ行こう。

10:50
 石畳の道、ローマ人がつくった道。歴史の道を歩くのは何とも気持ちがいい。ポプラの並木がきれいだ。そのポプラの木の杖ももうかなりすり減った。

13:45
 広い台地にでる。風が強い。

15:50
 アストルガ Astorga のレストラン・ガウディで昼食。野菜のスープ、小羊の料理、そしてデザート。とてもおいしかった。久しぶりにたっぷり食べた。ゆっくりと食べた。こんなのが毎日続いたらいいとも思うが、そろそろ日本食がなつかしくなてきた。白い米はやっぱりいい。味噌汁もいい。しばらくは動きたくない気分。今日は旅の中でも一番いい日の内にはいる。

18:30
 救護所につく。今日も11人いる。一つの部屋にだ。さっきはカテドラルに隣接する博物館にいってきた。キリスト像の血がルビーでできていた。これだから宗教はこわい。しかしこういうものに頼ってしか生きられないなんて人間とは弱いもんだ。

22:00
 夕食後、部屋に帰るとみんな寝ていた。夜はいびきのオーケストラ。


<アストルガ近くの分岐点>

<< 第10行程 : 11月8, 9日 - Astorga - Manjari'n - Cacabelo (68km) >>

(11月8日(月) 晴れ)
8:00
 いつもの5人(マノーロ、ジョルディ、ミゲル、ティナ、俺)以外はもう行ってしまった。今日はラバナル Rabanal か マンハリン Manjari'n までいこう。

10:10
 今日も朝焼けがきれいだった。アフリカのサバンナのような道をいく。

11:40
 エル・ガンソの外れで一休み。群れからはぐれた羊が一匹やってきた。

13:40
 思いのほか早くラバナルに着いた。ここでいろいろ買っていこう。これから道中で一番高い所(1,504m)を越す。

17:30
 鉄の十字架 Cruz de Hierro を過ぎてマンハリン Manjari'n につく。ここはいい。ジョルディは遅れた。マノーロは鉄の十字架のすぐそばの礼拝堂で野宿するのだという。他の人たちは皆先にいってしまった。鉄の十字架 Cruz de Hierro は石の山。サンチアゴの道が始まる前からあるのだという。巡礼者が一つ一つ石を積み重ねてできたもの。なんと、なんといっていいのやら。こわいやら。すごいやら。マノーロはこの近くで野宿するという。
 マンハリンの救護所は救護所と言うより山小屋だ。今日はここに住んで巡礼者の世話をしているじいちゃんとミゲルとティナと俺、そしてここに居ついた男女の巡礼者がいる。そして犬が一匹、猫が2匹いる。男の巡礼者はサンチアゴからの帰りで、これからローマとエルサレムにいくといっていた。ここはいい。暖炉がある。心地よい音楽も流れている。なんともいい雰囲気だ。

17:55
 沈黙の谷 Valle de silencio に沈む夕陽を6人で見ていた。皆無言だ。それぞれちがう人生を歩んできても今は同じ夕陽を見ていた。そして国は違っても同じようにサンチアゴを目指す。ヨーロッパをつなぐサンチアゴの道。ヨーロッパの文化の根底を流れるものであるのかもしれない。

21:05
 夕食を食べてワインも飲んだ。今日はもう寝るだけだ。今日はとてもいい一日だった。天気もよかったし、ここもいい。いい一日だった。寝るかね。


<鉄の十字架に登るミゲルとティナ>

(11月9日(火) 晴れ)
7:40
 朝焼けを見ている。霜が降りているので寒い。空の色が変わり始めているのでそろそろ朝日だろう。腹がへった。早くでろ太陽。

10:20
 8時半出発。今日は一人で歩いている。すばらしい朝だ。遠くに2日後越すもう一つの山が見える。あれを越せばガリシア Galicia だ。もう少しだ。

13:40
 こんな日一人で歩くのは悪くない。しかし一人の食事ってのはわびしいものだ。大都市になればなるほど人々の興味は拡散してその土地の持っている素晴らしい歴史的財産に目を向けなくなってしまうのだろうか。サンチアゴの道の中で一番大きい地域であるカスティーリャ・レオン Castilla y Leo'n が一番標識が少なく、この道の重要な都市であるレオン、そしてここポンフェラーダ Ponferrada には救護所がない。困ったことだ。

16:15
 レストランをでてよそ見をして歩いていたら柱に思い切り頭をぶつけた。痛い、痛い。おまけにワインを飲んでいたのでまわるまわる。

18:00
 カカベロ Cacabelo 到着。体育館の中にある夏期だけ使える救護所を渋い顔されながらも使わせてもらう。

21:20
 あとからミゲルとティナもきた。家族と友達に手紙をだす。少し腰が痛い。足をマッサージしたら寝よう。


<ラバナル近くの木工職人> <廃虚の村・フォンセバドン>

<< 第11行程 : 11月10, 11日 - Cacabelo - O Cebreiro - Calvor (75km) >>

(11月10日(水) 曇りのち雨)
7:40
 7時起床。少し雨が降っていたようだが大丈夫そうだ。マノーロ、ジョルディが追いつくか、俺が待たない限りここからは一人歩きということになりそうだ。

8:15
 出発はやはりこの時間になった。昨日の疲れが少し残っている。気を付けていこう。今日は峠越えだ。

11:40
 国道をいく。雨が強く振り出した。けっこう強いふりだ。トラックに気を付けないと危険だ。

13:35
 ポルテーラ Portela のレストラン。雨と汗でびしょぬれ。気持ち悪い。風邪がこわいが、まああと15km 弱だ。外は霧雨。ガリシアに入りつつあるってことか。

18:00
 峠を越えてガリシアにはいると、いきなり霧と雨。しかし今日はきつかった。

18:30
 オセブレイロ O Cebreiro の救護所に到着。きれいな建物だ。熱いシャワーも浴びてサイコー。

20:00
 ここは石畳の道、石造りの家々。16人しか住んでいない小さな集落。ミゲルとティナも無事ついた。霧雨が降っている。

21:50
 霧が深い。今日は16, 7人泊まっている。多くなってきた。いろんな奴がいる。いい奴もいれば嫌な奴もいる。

(11月11日(木) 霧のち晴れ)
9:20
 霧で何にも見えん。みんなそれぞれのペースでそれぞれの理由があって歩いている。それを一つの一般論にしようというのは可能なのだろうか、愚行なのだろうか。ここまでくるとどうしても気持ちも足も急いでしまう。

12:30
 峠につくと霧が晴れた。霧の晴れ間から素晴らしい景色が見えた。今はまた霧の中。いろんなことを考えている。

14:10
 トリアカステラ Triacastela 到着。すでにガリシア。言葉も違う。人も寡黙だ。雰囲気も違う。家の造り、空気、気候...異邦人だ、巡礼者は。早く着いたはいいが救護所が開くまであと2時間待つのなら次へいったほうがいいだろう。別に急いでいるわけではない。ただ歩いていたい気がする。自由と孤独と責任と。

16:10
 小高い丘の上。いい景色だ。いくつもの牧草地がまるでパッチワークのようだ。

19:35
 カルボル Calvor の救護所に到着。ここには暖炉がある。いい機会だから今までの「畜生」を燃してしまおう...燃えた。夕陽がとてもきれいだった。あと4日ほどだ。いよいよカウントダウン。ここの老人はいい面をしている、働き者の手をしている。一所で生きてきた人たちだ。

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updated:2001.7.31